テキスタイル(繊維膜)を用いた新たな宇宙構造の提案

研究背景・先行研究

 近年,宇宙太陽発電衛星や大容量通信衛星といった大型宇宙システムの構築が必要とされている.これらの衛星は打ち上げ時の容積の制約から,展開構造が用いられる.その2次元モジュール構造の多くはパネル構造であるが,重量・体積が大きく,kmオーダーの大型構造を構築するためには打ち上げコストの増加が懸念される.近年は,技術革新によってデバイスの薄膜化が進んでおり,膜構造を利用した,今まで以上に軽量,低体積な構造が成立する可能性がある.多機能膜構造と呼称する,膜構造に薄膜デバイスを貼付した太陽電池・アンテナ構造の実現が期待されている.膜構造の収納の課題は2つあり,厚さの影響による(1)低容積への密な収納が困難であり,(2)膜上の薄膜デバイスに過度な応力が加わることである.既往の研究では,展開膜に織物膜を利用することで厚さの影響を低減させることができ,薄膜デバイスに過度な応力を加えることなく密な収納を実現している.しかし,貼付デバイスや配線方法に関して実際の構造を想定していない.以上の背景から,本研究では宇宙展開織物膜構造という,織物膜の両面に薄膜デバイスとして薄膜太陽電池,薄膜アレーアンテナを貼付し,フレキシブル導電糸という屈曲可能な配線を施した構造を提案する. 本研究では、その初期検討として、提案する宇宙展開織物膜構造が収納によって機械的・電気的に機能を果たす、機械的・電気的な要求を充足する設計法を提案し、複数のプロトタイプ製作を通して提案手法の妥当性を確認する。

SDDLでの研究成果

 本研究では,初期検討としてまずプロトタイプを作成した.それにより,収納の課題を抽出し,理論を立て,実験にて検証を行った. 課題の抽出については,4つの課題を明確化した.(d1)基板連結部の配置,(d2)薄膜回路基板内のアレーアンテナの配置,(d3)織物膜上のアレーアンテナ基板と薄膜太陽電池の配置,(d4)配線方法,である. (2)の解決策の提案では,(d1),(d2)に関して,巻き付けハブの形状を多角形にし,基板の曲げ領域の算出を行い,(d3)に関して,両面の薄膜デバイス間の長さを変化させ,(d4)に関して,展開時に配線を交差させる立体交差配線と,織物膜の段同士に配線をつなぐブリッジ配線を提案した.
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発表論文

大野 奎悟, 坂本 啓, 大熊 政明, 岡田 健一, 白根 篤史, 戸村 崇, Dongwon YOU,「フレキシブル基板を搭載した宇宙展開織物膜構造の収納性」宇宙太陽発電学会,2020 年 5 巻 p. 18-22 DOI:https://doi.org/10.24662/sspss.5.0_18
論文掲載ホームページ:https://www.jstage.jst.go.jp/article/sspss/5/0/5_18/_article/-char/ja